Tuesday, November 9, 2010

Disoscillators 六連銭セルフライナー


 実はDisoscillatorsが2枚目のアルバム出すとは、自分でも予想していませんでした。Disoscillatorsは1stアルバム「Last Rockers」自体が企画盤的なノリだったのです。DJプレイ中にダンストラックに合うBPMのパンクをチョイチョイ挟んでいて、漠然とこれはいけると思ったのが始まりです。
 構想していたヴォーカリストの友人達からも、快い返事をもらいほぼ完璧なコンピレーションができて、リリース後にも世間から高評価をもらい、それで完結するつもりでした。

 そんな嵐も過ぎ去って、今度はオレのもう一つのユニット『katchinユ presents Dogday Afternoon』のアルバムを作るべく作曲に入ったのが2009年ももう終わろうかという時期でした。
 最初にできた曲はT-6の「破戒」でした。この曲をNiw! Recordsの担当者に聴かせ、偶然avexのDisoscillatorsの担当者にも聴かせました。
 この曲を両者共に気に入って、三者でミーティングを重ねた結果、Disoscillatorsが話題になっている間に2ndアルバムを作るのが得策ではないかという話になったのが2010年1月でした。

 2009年にはどんな状況(予算・納期)でも対応するべく、自宅スタジオを整備していきました。何でも自分でできるように。いわゆるDIY精神です。とにかく制作に関して自分に言い訳ができない様にしたのです。それが今回のアルバムタイトル「六連銭」にも表れています。
 
 “六連銭”とは棺桶にいれる三途の川の渡し賃のことで、通称で六文銭ともいいます。かつて戦国時代に真田氏の家の紋として旗印にもなっていました。
 オレの生まれ故郷の群馬県沼田市は、真田氏が5代にわたって統治していた歴史があります。なのでオレも子供の頃から六連銭を見聞きしていた記憶がありました。
 しかし歴史に興味がない自分としては、今の今までそれについて自分で知ろうという行動を起こしたことはなかったのですが、偶然アートワークのネタ探しで巡り会った六連銭が、「戦に出て死んだつもりで戦う」相撲でよく出てくる言葉「不惜身命」という意味があると知った時に、これは正に自分にぴったりの言葉だと思いました。
 真田があえて縁起の悪い死を連想する六連銭を旗印に使って、自分を追い込んで戦に挑む姿勢は、音楽不況の現代の我々DJやミュージシャンにとっても精神的にリンクすると思ったのです。むしろそのくらいの意気込みが無いとやって行けない業界になってきたのです。
  

 
 今回作曲に関しては、DJとか世の中とかの都合というものは一切考えないで、曲が一番カッコいい形になるようにしました。BPMがどうのこうの、4つ打がどうのとか一切排除しました。カッコいいサンプリングはそのまま伝えて、元の曲をみなさんが知りたくなれば幸いです。

T-1 「Lost Highway」
 デビッド・リンチの映画関係ありません。単純に響きがカッコいいから付けたタイトルです。前作「Last Rockers」から続いているアメリカン・ニューシネマのオマージュです。
 1971年の「バニシング・ポイント」にインスパイアされています。この映画がイギリスのプライマル・スクリームにも大きな影響を与えています。

T-2「The Girl On A Motorcycle feat. The Brunettes
 60年代のガレージ・ロック/パンクのサンプリングのみで構成したトラックに、前作にも参加してもらったYAMA (ex The 5.6.7.8ユs)にヴォーカルをお願いしました。
 元々はインスト曲のつもりでしたが、偶然下北沢のパーティーで会ったYAMAに「なんかやろうぜ〜」的なことを言われたので、彼女にピッタリなこの曲をメールで送ったら最高のヴォーカルを作ってくれました。
 1968年公開 マリアンヌ・フェイスフル、アラン・ドロン主演のイギリス/フランス映画「あの胸にもういちど」のオマージュです。

T-3「3rd Line feat. WOWW」
 AC/DCの影響を色濃く出したギターリフとタメを意識した8ビートのハードロック/エレクトロ。
 ヴォーカルはおなじみWOWW。もうDisoscillatorsとかDogday Afternoonとか関係なく、自分にとってもっとも重要なヴォーカリストです。
 Back Drop Bombでのロック・センスとDJユニットIllnoise Cityとしてのダンスミュージック的遊び心を併せ持った最強のヴォーカリストです。
 ライブの歓声と煽りはShea Stadiumのあのライブです。

T-4「Strength To Endure feat. CJ RAMONE」
 自分でもまさかのコラボ。CJ RAMONEと一緒にやりました。
 オレは自他ともに認めるRAMONESの大ファンで屈指のコレクターですが、まさか本人と共演できるとは。
 これは持論ですが、ファンというのはファンでいるのが楽しくて、本人と知り合うのが目的ではないのです。会ったりできればうれしい、サインもらったり、写真を一緒に撮ったり、それが幸せなのです。
 オレも業界の端っこにいるので、ミュージシャンは国内外問わずワリと近い存在なのです。なのでそういう機会に恵まれていました。
 CJが今年の2月に来日した際にベースの盗難に遭いました。その情報をRAMONES FC JAPANの人から聞いて、Twitterを経由していち早く世の中に公開したのがオレでした。しかし残念ながらベースは発見されず、CJはニューヨークに帰っていきました。
 オレは日本でベース盗まれたのが本当に残念で、日本で嫌な目に遭ったCJに何かできないかと思って、安いギャラだけど新しいベースの足しにして欲しいと思ってコンタクトを取りました。オレのことをCJは聞いていて二つ返事でオファーを受けてくれました。
 曲はRAMONESの1992年のアルバム「Mondo Bizarro」からの曲で、CJが初めてレコーディングに参加してヴォーカルも取った曲です。完全にオレのマニアックな選曲です。その辺も世の中の都合は無視しました。

T-5「New Rose feat. LOW-IQ-01」
 The Damnedの1976年のデビュー・シングルのカバーです。ハッキリ言って基本的パンクの名曲です。
 そもそもこの曲は「Last Rockers」でやろうと思っていた曲なんですが、間に合わずにこぼれた曲でした。そこで今回新たにアレンジを考え直して、ヴォーカルをイッちゃんにお願いしました。
 我々にとってのトラディショナル・ソングは、共に同じ文化・空間を共有した人間に頼むのがベストです。
 ズバリ!No打ち合わせで本番レコーディングしかも1時間で終了です。Great Master Low!

T-6「破戒」
 このアルバムで一番最初に生まれた曲です。
 AとFのコードをSugar BytesのEffectrixというプラグインでフレーズを構築しました。永遠にAとFのコードのみで進行しています。
 今回はエレクトロ的な曲は全て漢字を使ったタイトルにしています。
 この「破戒」は島崎藤村の小説の題名です。制作中に自然派文学をよく読んでいて、「破戒」の精神論やテーマに共感を覚えました。
 一字違えばDestroyで、そのままでも掟破りなのです。

T-7「Rockinユ & Breakinユ」
 オレがDJを本気で本格的にやると決意した時に始めたDJ MIXシリーズのタイトルでもあります。(是非一度聴いてみてください。一番分かりやすいオレのプロフィールだと思います)
 そのころから基本的なスタンスは一切変わっていません。どうしてもロンナイ育ちなので、一つのジャンルに縛られるのはつまらなくて、カッコいい曲は全部いただきの精神です。
 何年か前にDogday Afternoon用に作った曲で、全てサンプリングで作っています。Hip Hopのサンプリングで有名なあのレコードのB面のオルガンとか、ポール.ウェラーに多大な影響を与えたUKモッズの親分のギターとか。ドラムのサンプルは、Dogday Afternoonの2ndアルバム「Today Your Love, Tomorrow The World」のレコーディングの時に録った恒岡章 (Hi-Standard)、志村ヒトシ (The Ska Flames)の音源を使っています。

T-8「Nuh Longer feat. Martin Kinoo & LEMON」
 Chelsea MovementのMartin Kinooと新しいダンスホール・レゲエを共作しました。
 Martin Kinooに一番新しいレゲエを数曲持ってきてもらって、それを聴いてオレが思ったこと「トラック自体がレゲエである必要はない」ということでした。上に載っているMCなりヴォーカルがレゲエであればレゲエなのです。それじゃっということでデッド・ケネディーズのベースラインを拝借して、後半はワザと4つ打にしました。
 女性ヴォーカルにはWhack Whack Rhythm Bandで歌っていたLEMONを起用。以前からライブを観ていてスゴく気になっていたヴォーカリストでした。今年のMODS MAYにオレがDJで一緒になったので誘ってみました。
 彼女が歌っているメロディーはcubismo graficoこと松田岳二さんに作ってもらいました。

T-9「雷と空風義理人情」
 「らいとからっかぜぎりにんじょう」と読みます。これはオレの地元にある上毛カルタの一節です。ジャッケとの内側に絵札がありますのでチェックしてください。
 今回のアルバムはカナリ日本と地元を意識しています。
 洋楽の影響しか受けていない自分が、どう日本を表現すればいいのかということになると、音楽ではなく育った環境と日本文学しかなかったのです。
 しかし気づけば自分も邦楽のアーティストなのですよね。

T-10「六連銭」
 エレクトロですがサンプリングのドラムを使っています。
 最初はインタールード的な曲になる予定でしたが、なんか軽く済ますにはもったいなくなって、1曲にしました。
 怒濤の後半2曲を迎える合戦の序曲になりました。ヘヴィー・メタルの半音ずつ動くリフをシンセでも鳴らしてみたところ、軽くトランス的な雰囲気も出て暗くて重いエレクトロで、サンプリングを使ったことによってセンター定位のロック的パワーも出ています。恐らくダンストラックを作るDJにとっては「破戒」なのでしょうね。

T-11「This Is All Coming Out Right Now」
 オレはパンクの他にもインダストリアルにも大きな影響を受けています。高速のハードコアよりもマシーンが叩き出すビートの方が凶暴だと思うのです。
 しかしこの曲もサンプリングを中心に作っています。ギター、ベースは全曲自分で弾いていますが、この曲だけはベースにShige Murata (cubismo grafico five, □□□)に弾いてもらっています。
 ケーブル仲間のシゲと秋葉原にケーブル講習会に行った帰りにサクッとやってもらいました。さすがメタルの魂を持つ男です。
 カリフォルニア州知事にも立候補したことがある、アメリカ西海岸のパンクバンドのヴォーカリストの声ネタがバッチリはまりました。

T-12「Denoiser feat. JON-E & WOWW」
 とにかく他の人がやっていないこと。意外とロック系のネタはやる人が少ないのです。それはロックを理解できているDJが少ないということにもなります。
 ミドルスクールのRUN DMCやビースティー・ボーイズが新しいロックだ思って聴いていたオレは、90年代のミクスチャーやNYハードコアは、ミドルスクールの逆流だと思っています。この90年代のミクスチャーの自分の原体験があるからこそ、そのスタイルを現代にリメイクできたのだと確信しています。
 古いままでは焼き直しでしかない。だから新しいラッパーが必要でした。JON-Eは友達の弟で、巷では新鋭としてがんばっています、というか既に人気者です。彼のラップがあるからこそ、2011年のトラックになったのです。
 この曲を理解したいのならば、Judgement Nightのサントラを聴いてください。当時のアーティスト達がいかに先人をリスペクトしていたかが分かるでしょう。


 オレの成分表があるとすれば80%がロックでできていて、残りの20%がDJやダンスミュージックになると思います。
 言い換えれば80%の思考と20%の技術で構築された音楽をDisoscillatorと言えるかもしれません。
 まあ、実際はそんなに深く考えていませんが・・・
 なのでこのアルバムも考えないで感じてもらえればいいと思います。感覚ですよ。

 Disoscillatorsで2枚目のアルバムを出せたことに感謝します。


                  Katchin' a.k.a. Disoscillators